申しぶんのない 善意の嘔吐のなかで
主よ あなたは悪意を
お持ちです
そして 主よ 私も
悪意をもっております
人間であることが
そのままに私の悪意です
神であることが
ついにあなたの悪意で
あるように
あなたと私の悪意のほかに
もう信ずるものがなくなった
この秩序のなかで
申しぶんのない 善意の嘔吐のなかで
では 永遠にふたつの悪意を
向きあわせて
しまいましょう
あなたがあなたであるために
私があなたに
まぎれないために
あなたの悪意からついに
目をそらさないために
悪意がいっそう深い
問いであるために
そして またこれらの
たしかな不和のあいだで
やがて灼熱してゆく
青雲のように
さらにたしかな悪意と
恐怖の可能性がありますなら
主よ それを
信仰とお呼び下さい
(石原吉郎「悪意~異教徒の祈りから」)