監視するものとされるものの位置 生者の窓から見得る世界
生涯を終るにあたり きみはちょっとした実験をこころみた。つまりわらったのだ。
いちはやく私は読みとった。
その瞬間に 監視するものと されるものの位置がすばやくいれかわったのを。
死が私を解放するまで 私はきみに監視されつづけた。
死に行くものの奪権。
それはしずかに しかしきわめて過酷に行なわれた。
きみの死が完全に終ったとき はじめて私は立ち上がった。
いまは物でしかないきみをはなれるために。
私はもう一度監視者となった。
そのときはじめて知ったのだ。
きみは「あの」時から すでに物として私を見ていたのだと。
死者が見た生者も 「おなじく」物でしかなかったのだと。
立ちあがった私の目の前に ちいさな窓がひとつだけあった。
(石原吉郎「窓」)
(上記「 」は、原文では傍点。)